食品添加物の課題と功罪

元日本食品添加物協会副会長 中村幹雄

1.      食品添加物の有用性

食品添加物の有用性については、一般的に良く知られる有用性と新しい食品の開発を支えた特定の食品添加物についての2つの面から述べることとする。

1)     一般的に良く知られた有用性一般的に良く知られた有用性は、安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウムのように微生物による食品の腐敗や変敗を防止することにより、食品の保存性を高める保存効果、L-アスコルビン酸やトコフェロール(dl-α-は指定添加物、d-α-d-γ-d-δ-は既存添加物)のように食品に含まれる油脂等の酸化を防止する酸化防止効果、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルのように、乳化、分散、浸透、起泡、消泡、離型など界面活性の効果等、さまざまな効果がある。食品添加物の代表的な効果や機能を図1に列挙した。

        図1 食品添加物の代表的な効果や機能

甘味付与

変敗防止

腐敗防止

酸化防止

漂白

酸味付与

着香

増粘

ゲル化

乳化

分散

浸透

起泡

消泡

離型

旨み付与

味質調和

味質改善

膨張

豆乳凝固

苦味付与

pH調整

触媒

着色

栄養強化

  食品添加物は、加工食品の製造と販売にとって、欠くことのできないものである。ナチュラルチーズは、乳を殺菌し、レンネッ  ト(凝乳酵素)およびスターター(乳酸菌)を添加し、撹拌すると乳は凝固する。凝固した乳(カード)から乳清を除去し、型詰  めしプレス後塩を加え熟成するとゴーダーチーズが得られる。このレンネットは伝統的な食品であるチーズの生産にとって欠くこ  とのできない食品添加物である。

生乳 → 殺菌・冷却  →  凝乳・カッテング → ホエー排除 →

     スターター

     *レンネット

型詰 → 食塩添加 → 熟成 → 包装 → 製品

図2 ゴーダーチーズの製造工程

  練乳、バター、脱脂粉乳等の乳製品に砂糖、水あめ等の糖類を乳化剤や香料等の必要な添加物および水を加えてプレミックスを  得る。これを加熱・溶解後、ホモジナイザーで脂肪球を粉砕、均質化し、殺菌、冷却後、香料を加え、フリ−ザーに掛ける。フリ  −ザーで、水分の凍結、空気の混入(空気の混入の率をオーバーランと言う)、固体・液体・気体の均一分布をさせる。フリーザ  ーから出てきた半流動体のソフトクリームを容器に充填し、-30℃以下に急速硬化して、アイスクリームが得られる。ワニラアイ  スクリームであればワニラ香料と乳化剤は、欠くことのできない食品添加物である。

加糖練乳、無塩バター

脱脂粉乳、クリーム   → 加熱・溶解 → ろ過 → 均質化 → 殺菌 →

水飴、砂糖、安定剤

乳化剤、着色料、水            *ワニラ香料 

           → 冷却 → 冷却 → フリージング → 充填 →硬化 → 製品   

図3 ワニラアイスクリームの製造工程

  熟成した梅の果実を洗浄、選別後食塩に漬け込み(塩漬)、乾燥(干し上げ)させ、樽に入れ密封し、冷所で熟成させる。この  白干し梅干を塩でもんだしその葉と梅酢(塩漬けしたときに梅から抽出された液でクエン酸等を含む。)に漬け込み乾燥して得ら  れる「しそ梅干」と、この白干し梅干を洗浄・脱塩し、調味液(調味料、食塩、酸味料、糖類、あるいは着色料)で漬け込み乾燥  して得られる「調味梅干」がある。「調味梅干」の調味料、酸味料は、欠くことのできない食品添加物である。現在、伝統的な梅  干も塩分の少ない「調味梅干」に消費の多くは移行している。

原料梅 → 洗浄 → 塩漬け → 乾燥 → 貯蔵 → 洗浄 → 調味

               (干し上げ) (熟成)  脱塩   *

    調味液                            ↓ 

調味料、酸味料                        製品

甘味料、着色料

 図4 調味梅干製造工程

  このように伝統的な加工食品の生産・販売にとっても食品添加物は欠くことのできない有用な効果有する「部品」となっている  。この食品添加物はわが国だけでも約8,000億円の市場を有すると云われている。

2)     食品の開発を支えた食品添加物いろいろな油脂(精製大豆油、精製パーム油、 乳脂肪)を混合し、これに水、食塩、乳化剤(植物レシチン等)、着色料(アナトー色素、β-カロテン)、酸化防止剤(トコフェロール等)、香料を加えて混合し、マーガリン製造機で半流動状のマーガリンとし、充填機でカップに詰めたり、包装紙に包んだりする。マーガリン製造機は、密閉式で冷却装置のついた筒の中に高速で回転する羽根のついた軸があり、この中を混合・乳化された原料が撹拌されながら通過することにより、急速に練り冷やされ、半流動状態となる。

  マーガリンは戦後日本の栄養状態の良くなかったころから今日まで、バター代替品として大きな市場を有しているが、この開発  には機械の開発とともに、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、植物レシチン、酵素処理レシチン)の開発が必要であった。これ  らの添加物がなければ、マーガリンは開発できなかったであろう。

精製大豆油     *    **

精製パーム油  → 混合 → 乳化 → ろ過 → 殺菌 → 急冷 →

食用精製加工油脂                      練合わせ

乳脂肪 

        →  充填 → 包装 → 熟成 → 製品

     乳化剤、着色料、酸化防止剤

* 香料

図5 マーガリンの製造工程図

  生鮮肉または解凍された冷凍肉を細く切り、食塩と発色剤(亜硝酸ナトリウム)が加えられて数日間浸漬され、結着材料(大豆  蛋白、澱粉)、香辛料、調味料(アミノ酸等)、カゼインナトリウム、重合りん酸塩、酸化防止剤(L-アスコルビン酸)、保存  料(ソルビン酸カリウムが使用されることがある。)が加えられ、カッティング混和(細切と均一混合)され、ケーシングに充填  される。「天然腸ケーシング」では重合りん酸塩の水溶液で膨潤するか、酵素で軟化処理される。「人造ケーシング」では脆弱化  防止のためグリセリン等が塗布されることがある。充填後、乾燥、くん煙、蒸煮または湯煮され、急冷される。着色ウインナーソ  ーセージは、冷却前にアナトー色素や食用赤色3号で着色される。冷却後、真空包装される。包装前にケーシングが除去されるス  キンレスタイプの製品は変形防止のため、ケーシングに充填後希酢酸溶液であらかじめ表面の蛋白を凝固させることがある。図6  に工程を示した。

   30年程前までの初期の頃は、タール色素のオレンジUで着色されたが、安全性の問題が発生し、代替色素が探索された。ここ  に、アナトー色素が登場し市場を席巻した。海外でも、着色ウインナーソーセージは、アナトー色素で着色されている。尚、アナ  トー色素の安全性は、日本のメーカーも参加する国際的な業界団体(IACM)で実施され、JECFAで安全性が再確認された。

凍結原料肉

 ↓

原料肉 → 細切 → 塩せき → カッティング → ケーシング →

          *発色剤     混和       充填

(表面酸処理)→(水洗)→ 乾燥 → くん煙 → 蒸煮 → 水洗 →

                        (湯煮) 

冷蔵 →(ケーシング剥離)→ 包装 → 製品 → 冷蔵 → 出荷

    カッティング混和:調味料、カゼインNa、重合りん酸塩、VC、保存料

    表面酸処理:希酢酸溶液

    製品表面着色:着色料

   図6 ウインナーソーセージ製造工程

  ケーシングに充填する食品加工技術は、カニカマにも応用される。「人造ケーシング」の内面に着色料紅麹色素を塗布し乾燥さ  せる。そのケーシングに束になった細管からスリ身が充填され、蒸煮または湯煮され、急冷される。しかし、このようなカニカマ  はカニ足とは程と遠いものとの消費者の声もある。

  カニカマは、束ねた細管からすり身を射出し、その上に別の束ねた細管から着色スリ身を重ねることによって生産される。着色  スリ身は紅白のカマボコの赤く着色された部分と同様に調整される。わが国では、食品衛生法の規制で使用できないカルミン(コ  チニール色素のレーキ色素)で着色されたスリ身が米国などでは使用され、カニ足に近い色合いと歯ごたえのあるものが大量に販  売されている。

  日本では、紅麹色素、米国等ではカルミンというように全く異なる着色料(食品添加物)がカニカマの生産と販売を支えている  。ルールによって異なった発展があった典型的な事例である。

     

2.      負のイメージ

1)「果汁が一滴も入っていない粉末ジュース」 =食品添加物の固まり私たちの子供の頃、我が家が貧乏であったからかもしれま  せんが、「○○ジュースの素」に冷たい水を入れ、学校から帰宅したときや、草遊びから帰宅した後に毎日飲んだことを記憶して  いる。甘味はチクロ、オレンジの香りは粉末香料、色は食用黄色5号であったように思う。確かに「食品添加物の塊」だった。

  チクロが安全性の問題で使用できなくなって、「○○ジュースの素」は家庭から消えてた。しかし、チクロの安全性の問題をど  れ程の方々がご存知だろうか。高度成長で家庭(消費)が豊かになって、美味しい「30%果汁飲料」がどこの家庭でも買えるよ  うになったので、前の時代のものを「安物食品」あるいは「偽物食品」と意識し、それを支えていた食品添加物を「安物食品」ある  いは「偽者食品」の犯人と意識するようになったのではないのか。現在ではさらに飽食になって「100%天然」でなければならな  くなったのではないのか。

2)国会でも食品添加物が悪者に国会でも食品添加物が「悪者」にされてきた。「食品添加物の数を増やさない。」との1972年の国  会決議である。消費者にとっては単純な話である。「食品添加物は良くないので、国会も増やさないと決めた。良いものなら増や  さないとは決議しない。」と普通の人は思う。しかし、幸か不幸か、多くの国民はこの国会決議を知らない。

  私は、「食品添加物の数を増やさない。(国会決議)」=悪いから?」を払拭するには、「食品添加物の安全性の速やかな確認  」を求めた平成7年(1995年)の食品衛生法改正の際の国会の付帯決議をもっと前に出す(PRする)ことだと思う。科学的な観  点からすれば、「安全性の確認」が大事であって、数はどうでもよいのではないか。


3) 染み付いている現実先日愛知県の中部大学で日本食品衛生学会第92回学術講演会が開催された。講演後の質疑応答の中で、ある地  方衛生研究所の女性の研究者が質問に立ったが、ご自分の質問と食品添加物とは全く関係の無い状況でありながら、「食品添加物  の問題・・・・・」と枕詞で述べた。無意識に口からそうした言葉が出るのであろう。きっと、「食品添加物が問題である。」と  頭に染み込んでいるのだ。通りがかりに「顔が気にいらん。」とイチャモン付けるのとどこが違うのか。まさに「食品添加物」イ  ジメ。食品添加物が村八分にされる構造が見えてくる。極めて深刻な問題である。

3.      「無添加」

   無添加ハム、無添加ソーセージ、無添加パン、無添加調味料、無添加野菜、無添加ワイン、・・・・無添加石鹸、無添加化粧品、・  ・・、果ては無添加寝具、無添加住宅まである。

  無添加ハムのホームページに、「よその無添加は本物の無添加ではない。当社が本物の無添加」というようなものまである。「  「低添加のドイツ式ハム」は低添加ではあっても無添加ではない。「無添加ハム」は一切の合成添加物を排除したもの。「たん  ぱくの粉」も入れていないし加水もしていない。発色剤、リン酸塩も使用していない。天然の香辛料を調合し、自然の風味で仕上  げた。そのため保存性は一般製品より低いので賞味期限はかなり短い。開封しない状態で約1週間。必ず真夏でも0〜10を  保てる冷蔵庫で保存。「つなぎ」には国産の馬鈴薯でんぷんを使用。」のような趣旨のことが記載されている。スーパーマーケッ  トへ、週に1度買出しに行く私のような者には、保存食であるハムの賞味期限が1週間では辛い。

   無添加ワインのホームページでも同様な現象が見られる。「酸化化防止剤は、ワインをよりおいしくより健全な状態で飲めるよ  うに、数百年に渡ってワイン醸造に使われているもので、一般にワイン造りに必須なものとされています。また、これにより長期  熟成に耐えうるワインとなります。一方「無添加」に限らず「無農薬」「有機栽培」「遺伝子非組換え」といったものへの関心が  高まる中、ワインに関しても酸化防止剤が添加されていないものを求めるお客様もいらっしゃることもまた事実です。当社では、  フレッシュですっきりした味わいを楽しむタイプのワインであれば、酸化防止剤を加えなくても「おいしい健全な」ワインを提供  できるのではないかと考え、開発から製造まで一貫した品質の追及を行いました。」と趣旨を説明し、「当社が提供するおいしい  酸化防止剤無添加ワインをぜひお楽しみください。」とPRしている。
   「酸化防止剤無添加ワイン」ができることも事実でしょう。デーリー・ワインは、本当のワインでしょうか? 酸化防止剤抜き  では、樽に数年あるいは十数年寝かした本当のおいしいワインはできません。

  「無添加」表示の風潮に対して、日本食品添加物協会は、平成147月、見解を公表しています。日本食品添加物協会の見解は

1)消費者に不正確な情報を与える。
  2) 食品添加物の有用性や安全性に対する誤解をまねくとともに、食品添加物を用いた加工食品全般に対する信頼性を低下させる    恐れがある。

  とし、食品添加物協会会員および食品関連事業者に「無添加」表示の自粛を要請している。具体的には、次の2点。
 (1)あらゆる食品添加物を添加していない旨の表示、(「無添加」、「不使用」)
  (2)特定の食品添加物を添加していない旨の表示(「○○無添加」)の自粛

  食品の表示制度に関する懇談会でもこの「無添加」表示についても議論されたことがある。しかし、「表示については、景表法  があり、独禁法があり、すでに機能しているルールが存在する。一方、例えば、無添加の表示のルールは、景表法とは異なる、さ   らに踏み込んだルール設定の話である。」とのことで、公取でやるには大変難しい問題と思う。従って、私は、行政に頼るのでは  なく、世論形成が先だと思う。

4.      表示逃れの誘惑こうした「無添加」と書けば売れるとの考え方が蔓延すると、食品メーカーや販売者は、加工食品の表示を「消費者に受け入れられ易いもの」というある意味では当然の対応から逸脱し、「表示逃れ」に駆られるようになるらしい。ここで、1)「表示制度」の範疇での対応と2)新しい(違法な)「表示逃れ」の事例を示す。

1)「表示制度」の範疇での対応
    表示制度の範疇での対応として、「保存料」を「日持ち向上剤」で代替したり、「着色料」を「野菜汁」や「果汁」で代替した  り、「増粘多糖類」を「食品」で代替するような事例がある。先の「乳化液状ドレッシング」の原材料表示のでんぷんは、加工で  んぷんが使用されたと考えられる。加工でんぷんは国際汎用添加物46品目の一つとして食品安全委員会で健康影響評価が進めら  れていることは周知の事実である。多くの品目の加工でんぷんが食品添加物として指定されることにより現在使用できない品目が  使用できるようになることを歓迎する一方で、現在「食品扱い」で流通している品目まで食品添加物になることを警戒する考え方  もあり複雑な状況といえる。

  赤ダイコン色素(既存添加物)の代わりの「赤ダイコン汁」(食品扱い)。食品扱いの「赤ダイコン汁」を着色の目的で使用し  たのであれば当然「着色料赤ダイコン汁」または「赤ダイコン色素」と記載されなければなりません。しかし、「原材料の一つと  して入れたが、着色を期待していない。」ので食品扱いとし「赤ダイコン汁」と記載するという考え方も出てくる可能性もある。

  このようなことはないと思うが、食品添加物の規格を外れたものは「食品」とみなす考え方もある。例えば、クチナシ色素の含  量は、色値90以上とされている。色値50位の薄い抽出物(製剤ではなく原体のとき)は何なのか?

 2)新しい(違法な)「表示逃れ」
    昨年8月「抗菌性物質ナイシン含有、秋田県の「新食品」を疑問視=食品問題に詳しい弁護士ら指摘 未指定添加物ナイシンが  含まれているとして食品問題に詳しい弁護士2人が秋田県の「新開発食品」に疑問を投げかけた。ナイシン含有食品については九  州でも同様の例があり、その件について厚生労働省が6月3日、食品衛生法違反としての見解を発表、措置していたのだが・・」  (ニッポン消費者新聞8月1日号)をみて私は大変驚いた。

   ナイシンナイシン含有食品については、昨年(2005年)63日、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課は、福岡市保健  福祉局生活衛生部長からの「乳酸菌発酵調味料について」と題した疑義照会で、「別添1の方法で製造している乳酸菌発酵調味料に  ついて、別添2「食品・添加物等規格基準に関する試験検査等の実施について」のとおり抗菌活性が認められた。
  本製品は、(1)食品に対し、調味料として使用されていること、(2)食品安全委員会で添加物指定のために評価が継続中のナイ  シンAと類似の構造・活性をもつナイシンZを含んでいること、(3)製粉化前の原料の製造工程においてナイシンZ生成菌を選定  した上で膜処理により濃縮していること、当該製品を食品に使用する濃度範囲で抗菌活性が認められたことから、未指定添加物を  含む製剤に該当すると考えるがいかがか。」との意見で差し支えないと回答した。

   その前に、一酸化炭素によるマグロの薫蒸がある。15年程前(平成3年6月)に一部の鮮度保持剤と称する食品添加物が変色防  止等の目的で使用されているという指摘があった。ある食品添加物を刺身、切り身等を含む鮮魚にこれらの食品添加物を使用して  いたことが判明して、その食品の品質・鮮度等について消費者の判断を誤らせる恐れがあるものと考えるということで、使用しな  いように通達が出されている。

  その後、平成6年頃、「幾ら日にちが経っても赤いままのマグロがある。」という一般消費者からの指摘により、厚生労働省が  いろいろ調査し、一酸化炭素を使用して加工しているということが判明した。1994年(平成6年)9月に「化学的合成品たる一  酸化炭素の使用は食品衛生法第6条違反になること、また、一酸化炭素を変色防止の目的に使用することは、消費者に鮮度等の判  断を誤らせる恐れがあることから、使用しないように。」との通知が出された。

   それでも、今度は一酸化炭素の多いスモークで処理しようとする食品関係者が出てきた。これでもか、これでもかと。食品関係  に身を置く者にとって大変嫌なこと。平成9年(1997)5月にマグロのスモーク処理に対して、「スモーク品も含むということ  で、それに関して一酸化炭素処理したものとみなす濃度を定め、この値を超えたものについては、食品衛生法第6条違反として  取り扱う。」旨の通知が出された。平成9年9月には、ブリのスモーク品についても、同様に一酸化炭処理したものとみなす値を  定めて通知されている。平成10年(1998年)5月になって、2社から「自社のスモーク品については、平成9年5月、あるいは9  月の通知の対象外と考えるべき。」という観点から、の製法、特性、一酸化炭素濃度、変色等に関する資料が提出され、平成10  年6月、食品衛生調査会毒性・添加物合同部会から審議され、平成へ尾11年(1999年)2月に、「この製品及び同等の製法にお  いて製造されたものについては、一酸化炭素を含む煙で処理しており、かつ、一酸化炭素には一定の変色防止効果があることは周  知のことであることなどから、両社の製品についてはその製造に当たり、一酸化炭素が使用されたと考えざるを得ない。」との結  論に達し決着した。

    新しい問題として亜硝酸がある。亜硝酸は、もともと食肉の塩蔵から発見されたものである。食肉の加工法の歴史の中で岩塩を  使用すると保存性が向上するばかりでなく、肉の色調や風味が向上することが経験的に知られ、岩塩が広く利用されてきた。科学  の進歩により、岩塩によるこの効果は、岩塩に含まれる硝酸塩が肉汁中の微生物で亜硝酸に還元され、亜硝酸から還元状態で生成  する酸化窒素が肉のヘム色素と結びつき、肉の赤色を保持することが解明され、亜硝酸塩が利用されるようになった。

   この伝承的な技術を利用してハム、ソーセージなどの色調、風味の改善、保存性の向上やタラコ、すじこ、いくらの色調の改善  に利用されるのが発色剤。発色剤である亜硝酸塩は、原食中毒の原因となる「ボツリヌス菌」の発育阻止効果もあり、欧米では、  ハム、ソーセージなどの食肉加工品による食中毒防止のための保存剤として重要視されている。

   しかし、亜硝酸は、二級アミンが存在するヒトの胃内(pH13)でニトロソアミンとなり得るので、その発ガン性を気にする人  が多いと思う。

   1967ノルウェーにおいて亜硝酸ナトリウムで処理したニシンにより家畜が多数中毒死した事件が発生した。死因となった  ジメチルニトロソアミンはニシン中の二級アミンと保存料として使用した亜硝酸ナトリウムが、ニシンの乾燥工程中に反応して生  成したものと判明した。この事実から、食肉に使う亜硝酸ナトリウムに対する批判が急激に高まった。その後、亜硝酸ナトリウム  はアミノピリン、オキシテトラサイクリンなどの医薬品と酸性域反応してニトロソアミンを生成すること、また、アスコルビン酸  (V.C.)はニトロソアミンの生成を阻害することなどの研究が進んだ。

  現在ではアスコルビン酸(V.C.)の使用量の増加などによりニトロソアミンの生成を極力抑え、またベーコンなど喫食事に加  熱するものにあっては使用量を減少させる方法がとられているので、安全性上の問題にはなっていない。しかし、アスコルビン酸  によってニトロソアミンが生成するとの見解もあり、注視しなければならない。

  硝酸塩は生物の常在成分として510ppm程度存在するので、たとえ亜硝酸を添加しなくても食品中で、あるいは生体中でニト  ロソアミンは生成する可能性がある。日本人の硝酸塩摂取量は1日平均200400mgといわれ、この量は世界の平均摂取量の50  140mgの2倍以上の高量。これは日本人が偶然にも亜硝酸ナトリウム含量の高い野菜類を好んで摂取することによるものと考えら  れる。吸収される硝酸塩量(摂取の約25)の約20%が唾液として分泌され、口中で亜硝酸円に還元されるので、摂取された硝酸  塩の約5%が亜硝酸塩として胃に送られる。調査の結果では1日平均16.5mgと云われている。これに対し、添加物から摂取される  量は1人1日1mg以下とされ、それ以外の野菜等からの摂取量に比べ極めて少ないことがわかる。

   亜硝酸塩は、微生物繁殖抑制でも大きな効果があり安全性も問題ない食品添加物であるので、食品事業者は正々堂々と亜硝酸塩  を使用したらよいと思う。しかし、使用する必要がなければ使用すべきでない。

5.    「食品添加物の全面表示」を食品業界は受け入れたのではなかったのか!

戦後の食品規制の歴史を簡単に振りかってみたい。

1947年 食品衛生法制定

1955年 GATT加盟

1956年 「もはや戦後ではない。」=食生活の洋風化

1958年 画期的な加工食品であるチキンラーメンの誕生

1960年 添加物公定書(第1版)の告示

1962年 CODEX加盟

1963年 食品化学課の設置

1977年 天然添加物実態調査

1978年 カロリー2500Kcalで頭打ちとなり、食品は、量から質へと転換することになった。ライフスタイルも変わり外食産業が発    展し始める。1980年代はグルメ志向がもてはやされるようになり、多様化が進行した。

1984年 表示検討会

1991年 食品添加物の全面表示施行

1992年 第6版食品添加物公定書公表

1994年 日本食品化学学会設立

  1995年 PL法施行、食品衛生法の大改正(既存添加物、HACCP承認制度施行)、WTO設立(SPS協定発効、CODEX規格との整合化)、

日本食品化学学会第1回総会・学術大会

GMO作物や内分泌撹乱化学物質がテーマ

   この潮流はいったい何なのか?「消費者保護」と「国際的整合化」がその後の一貫した大きな流れであることをお分かりいただ  きたい。その後もその潮流は変わっていない。むしろ早まっているし、厳しくなってきている。それが国益であることを理解しな  ければなりません。

1996年 食品添加物の指定および使用基準のガイドライイン、O-157集団食中毒、

    第1ifia Japan開催

1997年 GMO作物の輸入承認(7品種)

1998年 内分泌撹乱化学物質をテーマに4省庁後援のシンポジウム(国連大学)

 1999年  第7版食品添加物公定書公表(既存添加物を収載)、JAS法の改正(品質表示基準の義務化、原産地表示、GMO表示)、ス     クラロースの食品添加物指定

2000年 乳製品の黄色ブドウ球菌毒素中毒、異物混入事件(回収)が続出

 2001年 国内初のBSE感染牛、保険機能食品制度の施行、有機食品認証制度の施行、食品リサイクル法

 2002年 アレルギー表示施行、食品偽装表示事件、中国冷凍野菜の残留農薬問題、

一連の表示偽装事件の多発を受けて、JAS法(農林物資の規格化及び 品質表示の適正化に関する法律)が改正され、違反業者の公表と罰則が大幅に強化された。

未指定香料(アセトアルデヒド、イソプロパノール等)を生産・販売した協和香料事件も起きた。

そうした中で、日本食品添加物協会は食品添加物の自主GMP認定制度を開始した。 

2005年  JAS法の大改正

 有機飼料・有機畜産物などの有機JAS規格と、農産物漬物、炭酸飲料、果実飲料など加工食品5規格および品質表示基準、規格の制定・見直し基準のガイドラインなどについて制定および改正。その後も改正が急ピッチで進められた。今回の改正で、農産物漬物規格ではキムチ規格の制定や食用タール色素およびソルビン酸Kの全面使用不可、炭酸飲料では糖類のポジティブリスト廃止と保存料、酸化防止剤、乳化剤のポジティブ化など食添業界にとって重要な変更が多くあった。改正を重ねる毎にポジティブリスト化が進められ、甘味料、着色料、糊料、酸化防止剤、乳化剤などに加え、調味料や酸味料などにも及んできた。さらに甘味料や着色料など多くのカテゴリーで同時に使用できる品目数が制限された。

    まず問題なのはこれらの制限の根拠が消費者ニーズに対応した製品を提供するために、必要最小限とするという    曖昧な観点であることだ。食品衛生法では安全性に基づいて、食添の品目と使用量を必要最小限に制限しているのだが、そこ    からさらに絞込み、品目だけを制限するJASの観点は、法制度上は食衛法と矛盾しないにしても、実情としては「食品添加    物を使わないものが良い製品」という誤ったイメージを広める役割を果たしている。これでは行政自らが優良誤認を推進して    いるような印象を与えかねないだろう。食添制限の撤廃については、日本食品添加物協会なども再三JAS調査会に求めてい    るのだが、今のところ方向性は変わりそうもない。

      この問題は業界の発展に暗雲となると思われるにもかかわらず、業界の対応は極めて消極的に思える。協会以外に積極的に    動いたということを余り耳にしない。更なる積極的な対応が必要だと思う。

    「消費者保護」と「国際整合性」が今日の大きな潮流である。消費者に正しい情報をいかに伝えるか、一方的な伝達ではな    い双方向のコミュニケーションが必要である。「隠して儲ける」時代から「開示して儲ける」時代になってきたと思う。

  1995年(平成7年)のPL法施行は事業者の責任を明確にし、既存添加物を定めることになった食品衛生法の改正をもたらした。  さらに、食品安全基本法は事業者の責務も明確にした。この流れは、食品を生産・販売するものの責任を重くするものであって、  決して軽くするものではない。未だにこの流れについてこられない経営者がいることが残念でならない。

6.      食品添加物の問題の払拭 

 消費者に理解を得られるためには、いわゆる「食品添加物の問題」を払拭しなければならない。食品添加物が槍玉に挙げられる理 由の一つに、食品添加物を理由とした食品衛生法違反が、特に輸入食品で多くみられることである。輸入食品の違反は、「指定外添 加物」と使用基準違反である。 

 指定外添加物の事例では、ポリソルベート、TBHQ、エトキシキン、サイクラミン酸、アゾルビン、キノリンイエロー、パテント ブルー、ケイ酸カルシウムなどがある。こうしたいわゆる「国際汎用添加物」の問題を解消するため、46品目の食品添加物を厚生 労働省が指定する方向で動いている。当初計画では、本年度が最終年であったように思われる。計画に比べスケジュールは大幅に遅 れている。
  国内的には、平成14年の厚生労働省の調査(食品添加物製造施設に係る一斉点検及び指定外添加物に関する違反事例調査の調査  結果について)で、2002年6月に全国の都道府県等において、添加物製造施設に対する原材料の使用状況、添加物及びその製剤の 表示内容等に関する立入調査が実施され、2001年7月1日以降の指定外添加物に関する違反事例についての都道府県の報告がまと められ、概要が公表された。「違反が確認されたのは、許可を要する施設は39件(立入調査を行ったうち2.1%)、許可を要さない 施設は3件(同1.4%)で、新 たな指定外添加物の使用に関する違反事例はなかった。
  また、このうち、協和香料化学・富士フレーバーが製造した添加物製剤を用いて違反と報告された施設は15件(当該社含む)で あり、当該製品については回収等の措置が取られた。その他の違反内容では、表示違反が26件、7条2項違反(規格が定められて いる添加物について規格の確認をせずに製造した)1件であった。表示違反では、ほとんどが成分、製造者などの記載がないもので あったほか、表示そのものがないものもあった。表示違反については指導票交付等により改善指導が行われ、7条2項違反について は回収の措置が取られた。」とのことであった。
   指定外添加物に関する違反事例について、「12都府県、17自治体から、食品衛生法第6条に関する違反事例が合計43件報告され ました。このうち、違反物質として最も多かったのが、サイクラミン酸とTBHQで共に15件、次いで、ポリソルベート4件、ロ ーダミンB3件等でした。」とのことであった。
   都道府県の調査でも同様で、神奈川県では、毎年、輸入食品中の指定及び未指定の添加物を検査している。
 「未指定の添加物が検出された最近の事例として、平成11年度に中国産の穀物加工食品から甘味料のサイクラミン酸が検出されま した。サイクラミン酸は日本では昭和44年に使用が禁止されましたが、中国、EU等多くの国で使用が許可されています。平成13年 度にはタイ産のカレーから、平成14年度には韓国産のコチュジャン(唐辛子みそ)から乳化剤のポリソルベートが検出されました。 平成14年には未指定の酸化防止剤であるTBHQ(t-ブチルヒドロキノン)入りの油を使用した多数の食品からTBHQが検出されたとの報 道がありました。当所でも、中華まんじゅう等の検査を行いましたが、検出された食品はありませんでした。
  また、食品添加物として指定されているものでも、使用が許されている食品以外に使用すれば違反となります。今年の事例を示し ますと、過酸化ベンゾイルは、日本では小麦粉処理剤(漂白等)として小麦粉にのみ使用が許可されていますが、中国産はるさめに 使用されていることが5月に報道されました。小麦粉が原料に含まれない食品から検出されると、食品添加物の対象外使用にあたり ます。厚生労働省が、5月から6月に検疫所で検査を実施したところ、10件の違反が発見されました。神奈川県でも、県内に流通し ているはるさめ、ビーフン等計20検体を7月に検査しましたが、過酸化ベンゾイルは検出されませんでした。違反はるさめの販売店 からの回収が迅速に行われたことがうかがえました。」とのことであった。

  続発する違反事件の中で、消費者は食品の安全について大きな不安を抱いている。しかし、この不安は、「未認可添加物を認可し 、違反ではなくする」ことで解消するものではない。逆に消費者の十分な理解・合意を得ないままにこうしたことが進められるとす れば、食品安全行政への不安を一層増すことになりかねない。今日の「食品の安全」問題で最も大切なことは、科学的な裏付けとと もに「消費者の納得」が何よりも大切だと思う。

消費者サイドから次のような要求が出されている。
 1)安全性評価データの公開も含め、審議過程をオープンにすべきだ。
 2)リスクコミュニケーションを行ない、消費者の十分な理解・合意を得ながら進めるべきだ。
 3)日本で既に指定している添加物に加えて、海外で安全性が確認され有用性が高いものを単純に指定するということではなく、よ   り安全性の高い添加物に切り換えていくなどの対応も取りながら総量を規制するべきだ。
 4)日本独自の安全性評価の上に立って、国際基準に問題のあるものは国際基準を変更させるなどの国際的主張や働き掛けを行うべ   きだ。

   食品添加物に関する2つ目の問題は、使用基準違反である。その殆どが輸入食品であり、事例としては、二酸化硫黄の過量、安息 香酸ナトリウムの過量、ソルビン酸の対象外使用がある。二酸化硫黄の過量は、ケーキ(パイナップル)、こんにゃく芋の粉
 (
0.90g/kg)、シロキクラゲなど、安息香酸ナトリウムの過量はシロップ(0.60g/kg)、ソルビン酸の対象外使用は「いくら」やク ッキー(カスーナッツ)で報告されている。こうした未指定食品添加物や使用基準違反は、添加物に問題があるわけではないにもか かわらず、食品添加物のイメージを大幅にダウンさせる大きな原因と思われる。

食品添加物そのものの違反は、規格基準違反(いわゆる不合格品)です。ほとんど耳にすることはない。輸入原料で、ルチンの基原が異なった件、合成着色料が乾燥ベニバナに噴霧されていた件など極めて少ないのが実情でる。しかし、私達はこれを「0」にしなければならないと思う。

7.  指定添加物の安全性と国際調和

1)不純物:食用赤色104号中のHCB
  本年(2006年)317日、厚生労働省は、化学物質審査規制法第一種特定化学物質ヘキサクロロベンゼンの副生に係る対応につい て経済産業省及び環境省と同時発表しました。発表内容は次の通り。

今般、テトラクロロ無水フタル酸(TCPA)の合成過程において、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)に基づく第一種特定化学物質であるヘキサクロロベンゼン(HCB)が副生する事例が報告された。これを受け、化審法を所管する厚生労働省、経済産業省及び環境省は、HCBの含有に係る事実関係の確認を行うとともに、HCBを含有するTCPAの用途等に関する調査を実施し、本事案に対する化審法に基づく対応について検討を行ってきた。
 その結果、TCPAに含有されるHCBを削減し、環境への影響を最小限にとどめるために、化審法に基づき「利用可能な最良の技術(BAT:Best Available Technology)」の考え方に基づく管理を行っていくことが必要である。このため、今後、専門家からなる評価委員会を早急に設置し、BATの観点に立った削減レベルの設定を行い、HCBの排出削減の徹底を図る。また、これまで把握しているTCPAの用途及び不純物であるHCBの最終製品中の濃度等から判断して、人の健康に影響を与えるものではないと考えられる。」

また発表された経緯は次の通り。

 「本年2月17日(金)に、工業原料として使用されているテトラクロロ無水フタル酸(以下「TCPA」という。官報公示番号3-1423CAS No. 117-08-8)に約10002000ppm0.10.2%)のHCB(第一種特定化学物質、官報公示番号3-76CAS No. 118-74-1)が含まれていることが判明した。これを受けTCPAの製造・輸入事業者は、自主的にTCPAの製造・輸入及び出荷を直ちに中止した。
 厚生労働省、経済産業省及び環境省は、これらのTCPA製造・輸入事業者に対し、HCBの含有に係る詳細な事実関係の確認を行った。また、これと並行して、TCPAの使用事業者に対し、当該化学物質の使用実態に係る調査への協力を依頼した。なお、これらTCPA使用事業者も、自主的に製品の出荷を停止している。」

HCBが第一種特定化学物質(製造、輸入及び使用が原則禁止されている物質)に指定されたことから、食用赤色104号及び105号の原料の購入や製造・販売ができなくなるという重大な局面に食用色素業界は立たされたが、私達は既に自主規格(HCB20ppm以下)で運用してきたので、そうした実績を当局に示し、生産・販売を可能としていただいた。それには、業界の10年に及ぶ努力があった。

食用赤色104号(D&C Red No.28Phloxine BColor Index No. 45410CAS No. 18472-87-2)は、医薬品と化粧品用の色素添加剤として米国FDAに認可されているが、食品に使用することはできない。国際的な食用色素製造業者団体(International Association of Color ManufacturersIACM)は、米国FDAへの申請をすることになった。

   1997年の予備交渉の段階で、FDAからHCB(ヘキサクロルベンゼン)に関するデータを提出するよう要請があり、1998930日 、IACMFDAに限度規格(20ppm以下)の書簡を送った。これは、Red No.28の一人当りの最大推定摂取量は6.8mg/kg/dayであり、 この時色素添加物中のHCB含量を20 ppmとするとHCB摂取量は0.000136mg/kg/dayとなり、Cabralらが発表したマウスの実験(J. R.  Cabral et al., Carcinogenesis of hexachlorobenzene in mice, Int. J. Cancer, 23 (1), 47-51 (1979)で述べられている試験動物で影響が出た摂 取レベル(12-24 mg/kg/day)よりはるかに低い摂取量であるためである。その後、長い経過がありますのでここでは省略する。
   この経過の中で、日本の業界は色素中の不純物として含まれている1-carboxy -5,7-dibromo -6-hydroxy- 2,3,4-trichloroxanthone  HXCA)の安全性試験(毒性試験)を分担しましたので、その後、Arizona大学のDr. Glenn I. SipesによるRed No.28の代謝試験が、  ラットに経口投与した場合、糞尿中に未変化体のRed No.2899%排泄され、静脈内投与の場合にも、95%以上のRed No.28が未変化体 で糞尿中に排泄される等の情報収集とともに、HCBの試験法や限度値について意見調整を進めていました。これが、なければ、今 回のような対応はできなかったと思う。

2)国際調和とローカルルール
   海外で食塩の固結防止に使用されているフェロシアン化塩の問題がきっかけとなって、2002年(平成14年)厚生労働省の薬事・ 食品衛生審議会において、
(1)FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)で安全性が確認されていること
(2)米国及びEU諸国で使用が認められているもの
   については、企業からの要請がなくとも厚生労働省が指定に向けて主体的に検討していくこととし、これに該当する46品目につ いて、4つのグループに分け優先順位を付した上で作業を進めることを了承された。
   しかし、ステアリン酸カルシウムやヒドロキシプロピルセルロース等の数品目が指定されたのみで、第1グループのポリソルベ ート類は安全性追加試験がされるなど当初の予定から大幅に遅れている。この遅れに対して、経団連など産業界からは早期の指定を 求める声が強く上がっている。
   昨年(2005年)3月に、「国際的に汎用される添加物に対する取組の強化(案)」が示された。「国際汎用添加物46品目のうち  、未だ食品安全委員会に評価依頼を行っていない26品目について、今後2年間にすべての品目を食品安全委員会に評価依頼する迅 速化を図るとともに、品目毎の評価依頼の目標年月を明示することによって、添加物の指定(認可)までの概略のスケジュール把握 を可能とする透明化の措置を講じる。」との方針である。併せて、国際汎用添加物以外の企業要請によるものについても、「平成8 年のガイドラインに沿って、標準的事務処理期間として要請から指定(認可)まで1年間の期間遵守に努力。」との方針も示された 。
   従 来(平成147月〜平成172月)は32ヶ月で20品目(平均 約0.6品目/月)であったが、今 後(平成173月〜平成192 月)は迅速化し、24ヶ月で26品目(平均 約1.1品目/月)を処理する方針とのこと。また、厚生労働省における資料収集・解析の なかで追加試験等の実施が必要であることが判明した品目であっても平成203月末までに評価を依頼するとされ、具体的方法、ス ケジュールが示された。また、審査は透明化を図ることになっている。

ステップ1:(厚生労働省による資料収集・解析)

ステップ2L食品安全委員会の評価)

ステップ3及び4:(審議会・WTO 通報等)

  しかし、わが国においては、諸外国で許可されている食品添加物が指定されていないものがあること、長年に渡って天然添加物の 食品への表示義務がなかったこと等から、天然添加物が独自に発展してきた。諸外国では広く使用されている赤色のカルミンはわが 国で指定されていないことから、同一主成分であるカルミン酸(コチニール色素)とミョウバンや有機酸を併用することにより、同 様の効果(赤色着色)が得られることから、カルミンが指定される必要も無かった。また、カルミンは、製法上、コチニール由来の 蛋白質の除去が困難であることから「アレルギー対応品」の開発上市がされていない。従って、国内の着色料業界はカルミンの指定 に積極的ではないのではないかとの懸念もある。

 このように、ローカルルールによって、独自に発展した加工食品産業を国際調和だけで調整することには難しい側面がある。

8.      既存添加物の規格と安全性

食品添加物は安全なものでなければなりません。平成7年の食品衛生法改正のときの国会付帯決議にある「速やかな安全性の確保」が進められなければならない。安全性の確認(試験)は、本来は事業者がなすべきものである。それがなかなか進まない状況の下で、厚生労働省に10億円を超える多額の予算を確保していただいていることに業界は感謝し、その恩に報いなければならない。

「既存添加物の安全性評価に関する調査研究―平成8年度厚生化学研究報告書―」(いわゆる林班の報告)で139品目の既存添加物につい安全性の検討が必要とされた。平成11年のいわゆる黒川班で検討された14品目を除く126品目を対象として、大急ぎで安全性の確認作業が進められている。平成15年度も17品目の検討結果は公表された。厚生労働省が公表した既存添加物の安全性見直しの状況を表にしました。

しかし、ここにも大きな問題がある。即ち、安全性試験が実施された品目で、その主成分に疑問が出ている品目(アルカネット色素、ニガキ抽出物、ヒキオコシ抽出物等。)があることだ。既存添加物名簿は、「化学的合成品以外の食品添加物リスト」に「化学的合成品以外の食品添加物の報告制度」を足し、「天然香料」と「一般飲食物添加物」を別リストにすることによって作られた。この名簿に追加と削除がなされ、平成7年(1995年)524日から施行された改正食品衛生法に基づき同年810日に告示された「既存添加物名簿」には489品目が収載されることになった。この過程で、訂正の申し出をしなかったか、既存添加物名簿と異なるものを現在販売しているのか、いずれかである。既存添加物名簿にも問題があると思う。ニガキ抽出物を既存添加物名簿の問題の事例として私の意見を説明する。

本品は全て輸入品で、海外ではQuassia extractと言われ、その基原は既存添加物名簿のジャマイカカシャー抽出物(Jamaica quassia extract)である。これを単純にニガキ抽出物として届けられれば問題が生ずることはなかった。ジャマイカカッシャー抽出物という届出があったことからその名称が与えられてしまった。そこで、「ニガキ抽出物」と二重に登録されることになった。単純な二重登録なら良かった。その後、それぞれに学名が与えられてしまった。訂正もせずに今日まで来てしまった。これが真相だと思っている。

この問題では海外の正確な名称をチェックしなかったことが原因だと思う。この2品目を1品目にすれば問題は解決する。簡単な問題だが、手続き的には難しい。

既存添加物の安全性見直し状況(平成176月)

既存添加物数

450

1.安全性評価済の品目

245

平成8年度厚生科学研究

39

平成11年度既存添加物の安全性評価に関する調査研究

 13

平成15年度既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究

 17

平成16年度既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究

 14

国際的に評価が終了しているもの(JECFAFDA等)

162 

2.安全性情報を収集している品目

 42

国立医薬品食品衛生研究所の専門家からなる検討会において整理検討中のもの

  4

反復投与毒性試験及び遺伝毒性試験の実施中のもの

 18

反復投与毒性試験及び遺伝毒性試験の結果から、慢性毒性試験/発がん性試験等の追加試験を実施しているもの

 19

販売調査等により流通実態の報告のあったもので反復投与毒性試験及び遺伝毒性試験の実施を予定しているもの

  1

3.基原・製法・本質等からみて安全と考えられ、早急に検討を行う必要はない品目

116

4.流通実態を確認できない品目

47

5.既存添加物名簿から消除された品目

39

品 名

基原・製法・本質

備考(英名)

海外で流通

ニガキ抽出物

ニガキ科・・・・

Quassia extract

ジャマイカカッシャー抽出物

ニガキ科・・・・

Jamaica quassia Extract

Quassia extract

 既存添加物名簿の策定に当たっては、当該添加物を特定するため、あるいは当該添加物が常に一定の品質が確保できるように、必要最低限度の基原・製法・本質が規定されたが、その際、植物の確認が不十分なものがあったと考えられる。次に、本質(主成分、化学構造)が明確にされる必要があった。これは、義平教授らが盛んにご指導されていたところである。しかし、残念ながら期待されたほどそうした研究は進まなかった。これは、事業者の責務であったはずである。

さらに、主成分の含量測定法の開発が求められたが、これも一部の品目を除いてなかなか進まなかった。また、不純物の特定と限度規格の設定も大事な課題である。工程で生ずる可能性のあるもの(紅麹色素:シトリニン)、環境からくる汚染物(アナトー色素:Hg)、増粘安定剤の精製に用いられる残留溶媒等々が検討されたが、これも期待ほどは進まなかった。

大きな問題としては、第8版添加物公定書に収載されず、自主規格すら無い品目が既存添加物の約半数を占めるということである。自主規格すらない品目の主な原因は次の4つ。

 1)輸入食品に使用のみに使用されている?
 2)「健康食品」に使用されている?(既存添加物名簿に収載されたことをもって「お墨付き」をもらったとPRした事業者も。)
 3)自社内使用専用?
 4)いわゆる「弱小メーカー」?

さらに、食品中の「天然添加物分析法」はなかなか進んでいない。本来、安全性試験(動物試験)には、飼料中の主成分の含量測定が必要である。飼料中の対象物質の安定性や飼料中の含量の均一性を確かめることは重要である。そのためにも「食品中の天然添加物分析法」の開発は大事なテーマである。
  このような状態であるので、天然添加物の食品中の消長、さらには代謝などの研究成果は望むこともできない。天然添加物のリスク(=リスク=ハザード×暴露量)を評価していくためにもこうした研究の大きな前進を望むものである。

9.    食薬区分

このところの規制緩和で医薬品と食品の区分(いわゆる「食薬区分」)が見直された。薬事法上の取り扱いで、かなり多くの品目が「非医薬品」とされた。しかし、これを食品衛生法でどのように受けるのか、受け方に問題があると言わざるを得ない。

 2001年(平成13年)327日医薬発第243号厚生労働省医薬局長通知「医薬品の範囲に関する基準の改正について」で、1971年(昭和46年)61日付薬発第476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる「食薬区分」)で示された「基準」が大幅に改正された。併せて、2000年(平成12年)39日医薬発第245号厚生省医薬安全局長通知「ビタミン及びミネラル類の取扱いについて」は廃止された。

 この改正の趣旨は、「今回の基準の改正については,食生活の多様化,国民の健康に対する関心の高まり等,国民の医薬品や食品に対する意識の変化が見られることや,食品衛生法(昭和22年法律第233)及び栄養改善法(昭和27年法律第248)に基づく保健機能食品制度の創設を踏まえ,必要な事項について見直したものであること。」とされた。また、成分本質(原材料)規制についての改正要旨も「物の成分本質(原材料)が医薬品に該当するか否かの判断は,従来,医薬品としての使用実態,食品としての使用実態及び医薬品としての認識の程度を基準として,6段階に分類されていたが,一般消費者や関係業者の利便性を考え,今般,この分類を簡素化したものであること。」とされ、具体的には、「判断基準」を作成し、これにより医薬品の判断を行うこととされた。ルールの詳細は省略する。ここで大きな緩和は、たくさんの品目が「別添3 医薬品的効能効果を標ぼうしない限り食品と認められる成分本質(原材料)リスト」にその例示として掲げられたことである。また、このリストについは科学的な検証に基づき定期的に見直しを行うこととされた。概ね1年程度の期間毎に追加、訂正、削除等が行われる。

個別の品目では、 アカバナムシヨケギク、ケルセチン、コエンザイムA及びルチンが「非医薬品」の分類リストに例示として追加された。

 2002年(平成14年)1115日医薬発第1115003号厚生労働省医薬局長通知「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」で、前年の改正がさらに追加された。即ち、前年の改正で、「科学的な検証に基づき定期的に見直しを行うこと」とされ、その後、新たな知見等が得られた成分本質(原材料)等について、改正が行われることになった。また、リスト名称が「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に変更された。

 個別の品目では、L−カルニチン および「植物由来物等」として、キ アガリクス、アギタケ、アップルミント、エゾウコギ(花・果実)、エルカンプーレ、カキネガラシ、キダチコミカンソウ、グラビオラ(果実)、ゲットウ、コウモウゴカ、コガネキクラゲ、サラシア・キネンシス、シンセンサンショウ、センリョウ、ツウダツボク、ツルマンネングサ、テガタチドリ、テンジクオウ、トウホクオウギ、トーメンティル、ハイビスカス()、ハカマウラボシ、ハンゲショウ、ブラックプラム、ボスウェリア・セラー夕、マツ(樹皮)、メナモミ、モミジヒルガオ、ヤグルマハッカ、レイシカク、レンギョウ()が、「動物由来物等」として、キ アザラシ、カメムシ、コンドロイチン加水分解二糖、スクアラミン、胎盤(ブタ)が、「その他(化学物質等)」として、キ アスタキサンチン、キトサンオリゴ糖が、「非医薬品」に加えられた。

 この一連の規制緩和は、食品業界にとっても歓迎すべきことであり、私には何の異論もない。これは、薬事法上の取り扱いの改正であり問題があると思えない。しかし、これを受けて改正された食品衛生法上の取り扱いに問題があると思う。

 2004年(平成16年)61日(一部、115日)食安基発礎第0601001号厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長通知「「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」で食品衛生法上の取扱いが改正された。特に、115日の通知で、「同リスト「3.その他(化学物質等)」のうち以下に示すものは、「一般に食品として飲食に供されるものであって添加物として使用される物」として取扱うこと。」とされ次に示す多くの品目がその中に収められることになった。 

アルブミン、イオウ(ただし、メチルサルフォニルメタンとして)、イコサペント酸(EPA)、イヌリン、オリゴ糖、オルニチン、果糖、L-カルニチン注2)、還元麦芽糖、環状重合乳酸(ただし、乳酸オリゴマーとして)、γ−アミノ酪酸、絹(ただし、絹タンパクとして)、グルコマンナン、クレアチン、ゲルマニウム注3)、コエンザイムQ10、コラーゲン、コンドロイチン硫酸注4)、植物繊維、食物繊維、ゼラチン、チオクト酸注5)、デキストリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドロマイト鉱石、乳清、乳糖、フルボ酸、ホスファチジルセリン、リノール酸、リノレン酸
 併せて、「残留溶媒の規格設定の指導にあっては、「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年12月厚生省告示第370号)の第2添加物の E 製造基準の添加物一般の製造又は加工する場合として規定されている溶媒に対する基準や「医薬品の残留溶媒ガイドライン」(平成10年3月30日付け医薬審第307号厚生省医薬安全局審査管理課長通知。以下「残留溶媒ガイドライン」という。)等を参考にされたい。なお、トルエンなど食品衛生法において参考となる基準がなく、残留溶媒ガイドラインを参考とする場合にあっては、医薬品と食品の相違を鑑み、十分配慮することが必要である。」とされた。
 この通知で、平成7年の食品衛生法改正で設けられた「一般飲食物添加物」なるものが分からなくなった。従来型の既存添加物が「基原・製法・本質」や「製造基準」で厳しく規制されていることとのバランスが取れていないのではないか。

10.化学反応(酵素反応も含む)

食品中の化学反応も重要なテーマである。近年の事例では、安息香酸とビタミンCとで飲料中に極めて微量のベンゼンが生成すること、油で揚げた食品にアクリルアミドが生成すること、古い事例では、たんぱく質の塩酸加水分解で極めて微量のMCPDCPが生成すること等、食品中の化学反応も検討されなければならない。詳細は別の機会とする。  

11.遺伝子組み換え技術を用いた食品添加物

このテーマについては、他の相応しい先生がさまざまな解説や指摘をされているので省略する。但し、食品添加物については、遺伝子組み換え技術がその生産工程にどのように関与しているのか、特に、組み換体を食すかどうか、それぞれのケース毎によく検討する必要があるので、単純に「遺伝子組み換え食品」の対象とした検討を加えることにすれば、評価を担当する研究者の時間を無駄にすし、大きなコストを無駄にすることになるので、この分野で仕事をする人はよく考えて発言すべきだと思う。

12.最大の課題は、「第8版食品添加物公定書」の告示である。

1版食品添加物公定書(1960年)が世界に先駆けて告示されてから、第2版食品添加物公定書(1966年)、第3版食品添加物公定書(1974年)、第4版食品添加物公定書(1978年)、第5版食品添加物公定書(1988年)、第6版食品添加物公定書(1992年)、第7版食品添加物公定書(1999年)、第8版食品添加物公定書(2007年予定)と脈々と続けられてきた。ここには、多くの先輩諸兄姉が携わられた。一刻も早い告示を望むものである。

13.その他

加工食品の原料原産地表示など食品添加物に関連する他の課題もあるが時間の関係で省略する。また、別の機会が与えられることを期待したい。

以上です。